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大阪高等裁判所 昭和36年(ネ)266号 判決 1961年12月14日

控訴人 兵庫加工水産株式会社

被控訴人 山下義勝

主文

原判決を次のとおり変更する。

控訴人は被控訴人に対し金三〇万円とこれに対する昭和三五年三月一〇日以降右完済まで年六分の割合による金員を支払え。

被控訴人のその余の請求はこれを棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。

本判決第二項は仮りに執行することができる。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は郵便送達による呼出を受けながら、昭和三六年七月六日午前一〇時の本件口頭弁論期日に出頭しなかつたが、陳述したものとみなした答弁書の記載によれば、主文第一項同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述、証拠の提出、援用、認否は原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。

理由

控訴人が昭和三四年一二月一三日訴外有限会社大岩万太郎商店(以下受取人という)にあて、金額金三〇万円、満期昭和三五年二月二一日、支払地・振出地とも神戸市、支払場所株式会社神戸銀行兵庫支店とする約束手形一通を振出交付したこと、受取人は右手形を被控訴人に裏書譲渡し、被控訴人は右手形につき訴外株式会社中部相互銀行に取立委任裏書をなして譲渡し、同銀行が同年二月二五日右手形を支払場所に呈示したところ、支払を拒絶せられたので、被控訴人において右手形の返還を受け、現にそれを所持していることは当事者間に争いがない。

控訴人は、本件手形は、受取人が控訴人に対し削り節の原料等の海産物を送付することを約束したので、控訴人がその前渡金として受取人にあて振出交付して置いたものであるが、受取人は右海産物引渡義務を履行しないので、右手形につき手形上の権利を有しないものであるところ、被控訴人は右手形をその支払拒絶証書作成期間経過後いわゆる期限後裏書により取得したものである。かりに、右裏書がそうでないとしても、被控訴人は前記の事情を知りながら、控訴人を害する意思をもつて右手形の裏書譲渡を受けたものであると抗弁するが、これに対する当裁判所の判断は原判決理由中に説示してあるのと同一であるからこれをここに引用する。従つて控訴人主張の抗弁はいずれも採用することができない。

次に、被控訴人より取立委任裏書を受けたる株式会社中部相互銀行が本件手形をその満期を経過せる昭和三四年二月二五日に、支払場所において呈示したとの前記事実が振出人に対し正当なる請求即ち遅滞に付する効力を有するかどうかにつき検討する。

手形債務は取立債務であるから(商法第五一六条二項)、手形上の権利者は債務者の現時の営業所、もし営業所なきときはその住所(商人の場合は営業所が住所に優先する。以下住所とあるはその趣旨)において手形を呈示してその支払を求めなければならない。手形法は支払人の住所を知る手懸りとして「支払をなすべき地」を手形要件の一としている。そこで約束手形についていえば、手形の呈示は原則として、支払地における振出人の住所においてなすベきものということになる。ところが、振出人の住所が支払地にない場合には、呈示ないし支払が不可能になるし、また振出人の住所が支払地内にある場合にも、振出人は支払地内における住所以外の場所で自ら支払うことを希望する場合或いは振出人の取引銀行または第三者をして支払地内にあるその住所において支払わしめることを欲する場合がありうる。そこで、手形法は、いわゆる第三者方払文句(手形法第四条第七七条二項)として支払場所の記載を認め、支払人の住所地にあると又はその他の地にあるとを問はず第三者の住所において支払うべき旨記載したときは手形上の効力を生ずることにした。この記載がある場合、右記載が振出人自身がその住所以外の場所で支払をなす趣旨か、第三者が振出人のためにその第三者が振出人のためにその第三者の住所において支払をなす趣旨であるかは、その記載内容が単なる場所の表示か、人の名称の表示かによつて決すべきである。本件手形には支払場所株式会社神戸銀行兵庫支店と記載されているから、右の記載は、振出人が右銀行を支払担当者とし、同銀行をしてその兵庫支店の営業所において支払をなさしめる旨を表示したものと解すべきである。

ところで、右支払場所の記載は、満期後においてもなおその効力を有するであろうか。なるほど、手形上の権利は、満期を経過するも、これにより消滅するものではなく、支払呈示期間経過後といえども、手形所持人はいわゆる期限後裏書により手形上の権利を譲渡することができるし、約束手形の振出人は、遡求権保全手続がとられたと否とを問はず、時効にかかるまでは責任を負担しなければならない。故に、支払地や支払場所の記載は満期後の支払についてもなおその効力を有するとの解釈も考えられないことはない。しかし、満期における支払は本来支払わるべき時期における支払であり、手形行為は満期における支払を目的としてなされるのである。そうだとすれば、支払地、支払場所の記載が満期における支払を目当てとしてなされるものである以上、右記載の効力も満期日並びに支払呈示期間内においてのみその効力があると解するのが相当である。それゆえ、満期以後においては、支払場所においてなす手形の呈示は無効であつて、付遅滞の効力はなく、その呈示は支払地の内外を問わず、振出人の住所においてなすことを要する。

従つて本件の場合は、本件支払命令の送達によつて付遅滞の効力を生じたものと解すべきである。

以上の事実によれば、控訴人は被控訴人に対し本件手形金三〇万円とこれに対する控訴人に本件支払命令の送達のあつた日の翌日であること記録により明らかな昭和三五年三月一〇日以降右完済まで年六分の割合による遅延損害金の支払をなすべき義務があり、その支払を求める限度において本訴請求は理由があるが、その余は失当であるからこれを棄却すべきである。

よつて、右と判断を異にする原判決を変更し、民事訴訟法第九六条、第九二条、第九三条、第一九六条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 大江健次郎 竹沢喜代治 北後陽三)

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